S診療所の残留物を解読調査し、当時の世相や人のありかたを知ろう!
…と社会教育講座のように云って見る。

日記のほうは難易度が高そうなのでまずはこっちからやってみることに。
P1030517

S診療所、一階診療室に残されていた張り紙『醫箴』とは、明治42年、日本の医学治療を支えた先人をたたえ、その功績を今に伝えることで医師の高揚を旨として発足した私立会:奨進医会(現在の日本医史学会)が
「フーフェラント氏医戒、チームセン氏医戒、新約医会医家倫理法典、スチラプ氏医家倫理法典、ミンヘン医会医箴、バーゲル氏医人道義学、モル氏医人倫理学、リーベルマイステル氏医則、パイペル氏医家職務論、コッペンス氏医家道徳論等の諸本を本とし、更に我邦前輩諸家の医則数十篇を取て、互に参照し、その萃を抜き、要を撮みたるものなり」
として発行した15条からなる、いわば医師への訓示だそうだ。
ちなみに「箴」とは強い戒めの言葉の意味。

でも自分なりに解読したものなんて間違っているかも知れないし、載せられない。
それじゃあ既解読済みなのと照らし合わせればいいじゃない。
ということで広島大学医学部医学資料館にこれが納められていると知り、問い合わせた結果ようやく自信を以て公表できるものが以下です。
広島大学医学部医学図書館様、今回は突然連絡おしかけたにもかかわらず、丁寧なご回答、本当にありがとうございました。

以下、解読文


 凢そ(1)(2)は死生の際に處(3)するものなれば、勢利と榮名とを顧みず、慈悲を心として、普ねく、含靈(4)の疾苦を救はむことを務むべし。


 誠敬(5)を以て禮(6)となし、威儀を以て用となす、廉潔謙遜(7)の諸德、兼備はりて、始めて、濟生惠人(8)の業を、世に施すことを得べし。


 醫の病者に臨むや、常に宜しく慎密なるべく、決して疎放なるべからず、 而して慎密中、又一段、勇決明斷(9)の處なかるべからず(10)


 其術を行ふや、細事と雖も(11)、必ず用意周到、常に其試むる、其知る所を施し、毫も(12)遺憾なきことを期すべし。


 縱令不治(13)の病者に値ふも、倦まず、怠らず、以て其痛苦を緩解せむことを圖る(14)べし、 此時に方りては、その病を救ふこと能はざる(15)も、病者に一縷の慰安を与ふるは、 是れ仁惠の大なるものなり。


 病者自から死生を疑ふに及びては、醫を見ること神の如し、故に此場合に處しては、言語明晰、態度従容ならんことを務むべし。


 仁者(16)は能く容れ、能く忍で、故に病者に對(17)しては、惟(18)忍び、惟容れ、以てこれを優遇せむことを務むべし。


 病者の性格と、家庭の情態とは、共に其施治に関係すること鮮少なからず、故に、常に人情を察し、事機を觀(19)て、其事に當る(20)べし、然らざれば迂闊(21)の嘲を免れざるべし。


 方箋(22)を記するの一事は、醫の要務なり、若し軽忽にして誤寫(23)あるときは、病者の大害を来たすべく、特に危險の藥品を授るに方りては、尤も(24)注意せむことを要す。


 他醫の治法の可否は妄に(25)批評すべからず、蓋し(26)毫髪(27)の事情に依り、前後の状態を變ずる(28)ことあればなり、病者を若し(29)これを強ゆるときは、宜しく説て、前醫の良に歸る(30)べし。


 聲聞(31)を求むるは、信を得るに如かず、世間往々、聲聞を求めんと欲して、却て信を失なふものあり。警めざるべからず。


 醫は他人最秘の密事、最辱の所為を聞かざるべからざることあり、故に常に沈黙を守り、以て病者の信任に辜負(32)せざらんことを要す。


 同業者に對しては、彼此相恭敬することを以て、第一の務と為すべし、若し夫れ然ること能はざるも、必ず能く相忍ばざるべからず。


 治術の商議に際しては、自己の學術の蘊奧(33)を發揮し、專心一意、以て病者の安全を圖り、些も(34)猜疑忌避の念を挾むべからず。


 醫たるものは、尤も忠良の國民たることを期すべし、故に公共の問題あるときは、其業務の範囲中に就き、率先勇往すべし、決して一身一家(35)の便益を圖るべからず。


( 0M0)<ナニイテンダ
というわけでわかりにくい単語の説明を下に置いたので適宜使ってください。

(1)凢そ…「凡そ」に同じ。そもそも
(2)醫…「医」の旧字体
(3)處…「処」の旧字体
(4)含靈(霊)…仏教用語で迷える衆集のこと。要するに世の中の人々。みんな
(5)誠敬…相手を敬う気持ち
(6)禮(礼)…人と付き合う上で当然の作法
(7)廉潔謙遜…奢らず、節度ある態度と気概をもつこと
(8)濟(済)生惠(恵)人…人の命を救うこと
(9)勇決明斷(断)…大きな判断、ハッキリ言うこと。
(10)なかるべからず…否定の肯定。つまりは強い肯定文。 「一言なかるべからず」なら「なんか言え!」って意味になる。
(11)雖も…たとえ~だとしても。いえども
(12)毫も…少しも。ごうも
(13)縦令不治…思うように動けない病気
(14)圖る…「図る」の旧字体
(15)能う…「~できる」。あたう
(16)仁者…ここではよき医者の意味。
(17)對…「対」の旧字体
(18)惟…ただ、ただ~だけ
(19)觀…「観」の旧字体
(20)當…「当」の旧字体
(21)迂闊…心の行き届きがない。回りくどくて実用性がない
(22)方箋…ここではカルテ、または処方箋のこと
(23)寫…「写」の旧字体
(24)尤も…もっとも。ここでは「最も」の意味
(25)妄に…みだりに
(26)蓋し…ここでは「もしかして」の意味。けだし
(27)毫髪…少し、わずか
(28)變…「変」の旧字体
(29)若し…もし
(30)歸…「帰」の旧字体
(31)聲(声)聞…評判や名声
(32)辜負…無にする、そむく。
(33)蘊奧(奥)…真髄、最高のもの
(34)些か…いささか。少しも
(35)一身一家…個人的なこと。自分の身、自分の個人的な家族


見にくいよね。でも原文はそのまま載せたかったんです。
すみません。