渡島半島の突端にあたる松前半島と亀田半島。
その背を走るように敷かれた二つの線路、一つは
その寿命をわずか35年で終えた。
そしてもう一つは、産声を上げる前にすでに死んでいた。

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戸井線は
函館本線の五稜郭から分岐して湯の川を経由し、戸井町まで至る路線として建設された軍事利用目的の未成線。
当時の本州と北海道を結ぶ航路は函館~青森までであり約100キロの距離があった。軍部はこれがきがかりで、少しでも航路距離を短くするため、本州と北海道の距離が一番短い(約17キロ)北海道側の戸井町と青森側の大間の間に青函航路の代替行路を計画した。
戸井線はその連絡路線として建設されたのである。もともと戸井には津軽海峡を防備する要塞建設が進められており、軍需資材や物資、兵員輸送もその建設の理由の一つであった。
昭和12年に建設が開始され、竣工予定は昭和19年として順調に工事は進んだが、戦局悪化でしだいに資材不足に陥り結局昭和18年に工事は中断された。
未着工区間は残すところわずか2.8キロの距離であった

しかし、この工事で作られた橋脚、隧道は戸井の汐首岬周辺に今なお残っている
巨大なアーチ橋
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未成線の廃墟の中でも戸井線は第一級の規模と現存率を誇る

汐首岬手前に突如現れる橋脚
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何も知らない人が見たら、廃線だなんて思うだろうか

いや、たしかに廃線ではないだろう
だって、この橋は一度も列車を載せないまま打ち捨てられたのだから。

汐首岬灯台の階段付近にも、橋脚の一部が残っている。
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SIREN2みたい

戦後に、ここまで作ったのだからもう少し頑張って通したらどうかという案もあったそうだ
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が、それもうやむやなまま数十年間戸井線はほったらかし同然にされた。

しかし昭和30年代も終わりにさしかかったころ、戸井線に復活の兆しが見える。
向かいに見える津軽。これこそが戸井線に再びスポットが当たる発端であった。
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青函トンネル工事計画である。青函トンネル掘削において津軽~松前の西ルートを使うか、下北~戸井の東ルートを使うかで論議が起こったのだ。
もし東ルートが実現すれば、戸井線は数十年の苦汁を経て悲願の復活を果たすのだったが、ご存じのとおりルートは津軽~松前を使うことに決定。
昭和43年、ついに敷地は国から戸井町に払い下げられ、戸井線は一度もレールを敷かれることなく完全に廃墟となった

ネタバレ:上の画像でうすーく見えているのは松前半島の知内山です 

ここは最近改修が入っているようでコンクリが新しかった
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しかし、この線路。どうしても使われない重大な理由があるのである

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それは、この線路が建設されたのが戦中だったということに起因する。

「資材不足」と「人員不足」。「工事の無理な急ピッチ化」がもたらした、ずさんな施工である
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この戸井線、橋脚やトンネルが一部「木筋」、「竹筋」だという噂がある。
その中でも特に完成を急いだ戸井汐首岬周辺のトンネル、橋脚部は酷く、画像に見えるトンネルの中は木筋が腐って崩落が進んでいるのだ。

戸井線は、安全性からも必要性からも生まれながらに使用されない運命にあった悲運な路線だったのである。
そう思うと、さきほどのアーチがほぼ当時のまま残っているのは奇跡ではないのだろうか。

中にはこうして、生活道路として使用されているものもある。
崩落を心配する声もあるとか。
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ちなみにこの橋脚。「蓬内(よもぎない)橋」というらしい。
コンクリート製3連橋。長さ36.8m。幅3.1mである。

これはまた奇妙な光景
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廃墟には、日常と非日常があると思う

階段登り口隣りの家で昆布干しの作業をしていたおばあちゃんとお話した。
なんと今度の春にこの付近に新道が通るらしく、この橋脚もその工事で取り壊す可能性があるのだとか。
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いいタイミングだったかもしれない。

2012年8月24日追記)
2012年8月13日 北海道新聞夕刊に、ちょうどこの橋脚が解体されることが决定したという記事が載っていた。
要約するとこうである。

 「函館市は2007年度から着手している新しい市道建設を進めるとともに、旧戸井線蓬沢橋を2012年12月に解体換設することを決定した。 老朽化が進み、耐久性の疑問も根強いこの橋を生活道路としていることに地域住民からの不安、架け替えの要望が数多いためだ。 戦争遺産、また産業遺産として保存を求める声もあったが、市は不安の解消に重きを置いた。
 韮澤憲吉・函館高専名誉教授は『昭和初期の建造技術を後世に伝える価値がある』と強調し、『せめて解体時に、竹材が使われているかどうかの確認をしたい』と話している」

なんでも橋の幅が狭くて大型の消防車が通ることができないそうで、通れたとしてそもそも橋はその重量に耐えられるのか不安なのだとか。

話をもとに戻す。
おばあさん曰くこの戸井線の工事には、強制労働の朝鮮人も多かったと言う。
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この付近には、逃げてきた彼らを風呂桶にかくまった家が何軒もあるそうで。

いい景色だ。
ちょっとしたトンネルの向こうが紺碧の景色だなんて浪漫がないかねぇ?
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この天井も、中は竹・・・?
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話題のガゴメ昆布
函館~南茅部周辺にしか生えない、最高の味覚
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汐首岬からさらに行くと、線路はなくなり旧道と新道が交互に現れる道に
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島が見える 泳いで渡れるらしい
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小学生のころ、あの島の向かいの海岸で泳いだことがある
少年団のキャンプ、懐かしいのう

よく見ると港と神社が見える
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夏の間、漁師の人たちが寝泊りする番屋くらいはあるだろう

旧道のトンネル
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なんじゃこりゃ
ぜひ中に潜入してみたい。

後で調べると、この道は旧国道の「日浦道路」という廃道だそうでその筋のマニアがけっこう出入りしている場所らしい。
でも夏の潜入は無理だ。環境が整ってから潜りたい。

戻りの道中で橋跡を発見
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数年前まで小学校があったらしい。さしずめこれは校門ってわけか

小学校は、北海道の大自然に飲まれていた
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向こうの白い建物は老人ホーム

訪ねられてよかった。冬にまたこよう
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・・・お気楽モードでいくつもりが、いつもよりももっと内容おもっこくなっていたかもしれない
あれぇ…