今回は上磯町中央地区の墓地を調査。

いざ行って見ると驚いた。 当地は廣徳寺 禅林寺 東光寺という三つのお寺がわずか300m枠内に密集する場所で、一体どこからどこがどのお寺の領域なのかよくわからないという珍しい現象が起きていた。

こんな感じ

無題


何か理由があるのか調べてみたが、特別理由らしいものは見付けられなかった。ただの偶然の産物らしい。
三つの中で最も開基が早いのは禅林寺で正徳二年(1712年)、次に東光寺が享保元年(1716)、遲れて廣徳寺が文化七年(1810)と続く。 廣徳寺と禅林寺は明治3年3月26日に近火類焼したそうなので、そのころから今の形に近い立地だったのでないのだろうか。

ちなみに廣徳寺は曹洞宗。禅林寺は浄土宗。東光寺は眞宗大谷派。


では廣徳寺に近い墓から廻ります。

・『松竹梅竜胆』

P1140164

縁起がいい家紋だ。いいとこどりである。


・『八重梅』

P1140165

ふっくらしていて可愛らしい家紋
梅→公家 桜→武家 という印象は現代人だから抱く物なのか… 桜はもっと日本人の内面に深く入り込んでいるような気がする。
そして前にも書いた気がする。


・『五瓜に中陰菱』

P1140166

これはこれで実際にある花に見える。使用家は原田さん。
道南に木瓜家紋が多いのは、蝦夷地に渡って来た先祖の出身地である北陸地方に木瓜家紋を用いた家が多いことが理由の一つにあるとか。

朝倉氏が一向宗勢力と戦うため徴用した農民たちが、木瓜家紋を借用したのがそもそもの初まり。 石川県周辺では現在でも「ダラ木瓜」と呼ばれる位ありふれた家紋であるそうな。



・『丸に尻合わせ三つ葵』
P1140168

使用家は辻本さん。

『尻合わせ三つ葵』の意匠は本来なら中心部も塗りつぶされるが、これは彫りぬかれている。


・『丸に三盛源氏輪』

P1140172

個人的に面白いと思う。 疎の中に密がある、顕微鏡をのぞいているような感じがする。
使用家は菊地さん。


・『対い鶴』

P1140174

日本酒の意匠のように見えるのは、琺瑯看板収集趣味の症状です。
使用家は佐藤さんか山本さん。(苗字が二つ書かれていたので解らなかった)


・『丸に上がり藤に日の丸扇』

P1140176

なかなか均整が取れている配置と選択。
使用家は半田さん


・『丸に切竹笹に笠』

P1140178

竹家紋は面白い派生が多いがこれはその中の一つ。使用家は高橋さん。

なぜ竹に笠なのかいつも気になる。 なにかの故事から取っているのだろうか。
貴人の象徴である笠と、長久子孫繁栄、縁起のよい竹の組み合わせ。 これでも合点はいくけれど、本当は竹=賤民の象徴として意匠をこらしたのかもしれない。 そう考えるとなかなか面白くなりそうなんだが…

ちなみに「高橋さん」は笠家紋の使用家が多く、ルーツは藤原秀郷にあるらしい。
高橋さんの橋はもともと「柱(はし)」と書いたそうで、これは神様の数え方が「一柱二柱」であるように神が宿るものことだったそうな。 また古来より笠をつけている人は高貴な人だとされた。笠をかぶって顔が見えないその姿に神を感じたのだ。蘇民将来の話の様に、笠をかぶってふらりとやって来ては福をさすげてまたどこかへ旅立って行く神をマレビト神と呼ぶ。

笠家紋を用いる高柱。 これは彼らがマレビト神を呼び込む地位、又は職業にある家系であった隠喩なのだとか。


・『丸に抱き銀杏』

P1140180

おお、兵庫県の霊園でみつけてから久しく見かけなかった銀杏家紋をついに再発見。
初見では『捻り銀杏』とか勝手にネーミングしてしまっていた。

使用家は黒瀧さん。 かっこいいな…


・『八曜に蛇の目』

P1140182

使用家は吉川さん

曜家紋に新種が登場。
日と蛇かー。霊力的にいいとこどりですね。


・『丸に九曜桜』

P1140184

九曜が流行っているのでしょうか。
京都府八木の墓地でも見かけた気がする。 懐かしい…

使用家は楢山さん。


・『杏葉楓』

P1140187

使用家は東さん…? 「東家」なのかもしれない。
杏葉の名は左右の盛形が杏葉に見えるからだろう。 アレンジとして数々の家紋に取り入れられている。


・『?』

P1140188

使用家は安司さん。
非常に由緒がありそうな意匠なのだが辞典には未掲載。是非読み方が知りたい。
なんらかの器物だとは思う。しかし月でも剣でも鏡でもなかった。月牙刀?

ああアレか? 昔の家の床の間に置いてあった水牛の角を二つ合わせたアレ
ただの置物なんだろうかアレは。名前もよくわからんアレ。一体なんなんでしょう…アレ

2013年11月5日追記)
この墓を使用している家の方とコンタクトがとれたが、残念ながら読み方は「以前本家に聞いたときにはもう誰もわからなくなっていた」そうである。
しかし、その先祖の出自が京都周辺であるということは伝え聞いていると語ってくださった。

京都かあ… 「安司」の字といい、もしかしてお公家さんか?



ここから(おそらく)禅林寺墓地と東光寺墓地に入ります。
・『山崎扇』

P1140191

ネーミングからして山崎一族発祥の家紋なんだろう。 要の部分の意匠が面白い。
ここで使用していた家も山崎さんだった。


・『丸に折り入り角に四ツ石』

P1140192

使用家は小田島さん

折入り角も甃紋も初めての紹介の気がする。 甃は石畳のことで敷き詰めた石の意匠化。
これを連続させたものが元禄とか、市松模様とか呼んでいるアレである。


・『三つ松に花菱』

P1140195

使用家は松長さん。
松紋が輪型に派生したものか

いろいろ廻ってきて気が付いたけど、桜と松の家紋は苗字と絡ませたものがやたらと多い。


・『丸に中陰光琳蔦』

P1140197

上ノ国中須田墓地のほかどこかでも見かけた気がする。
光琳派生種の中では使用されやすいのか。

使用家は武子さん


・『浅野鷹の羽』

P1140199

木古内墓地にもあった気がしますが、ここでも紹介。
使用家は中西さん。


・『丸に扇に蔦』

P1140202

使用家は石崎さん

どうやら親戚筋がたくさんいるのか、この墓地だけでも4、5基の同家紋が彫られた墓を見付けた。


・『四つ鐶に左三階松』

P1140204

使用家は石川さん
三階松は数か所廻れば必ず一軒あるような家紋の一つ。
中の上から中程度の多さである。


・『丸に右卍』

P1140207

使用家は横山さん

よく見ると、普通の卍とは反対になっている。 ・・・が指摘されて初めて気が付いた。僕としたことがッ!

右卍は忌避されるものって聞いたことがあるけどよくよく思い出したら違った。
「首桶は通常の桶と箍を閉じる方向が逆で、卍が表記される」という話といつの間にか混同していたのだ。
記憶の反復運動って大事だねえ


・『丸に違い鍵』

P1140212

使用家は関崎さん。この墓地では三軒ほど存在。

鍵紋も紹介が初めてですね。 現代では土蔵の鍵なんかでしか見かけなくなったこの形も江戸時代までは普通だった。 先についた稲妻型のあれで、扉の中にしこまれた閂のようなものをひっかけ外す仕組みである。
「ひっかける」ってことで鍵も鉤も語源は一緒なんだろう。

鍵を使うということは密閉すること。中に置くものは大事なもの。ということで鍵は富貴や魔除けの象徴なんだとか。
家紋としての使用の由来でもある。


・『三つ割り菊』

P1140216

使用家は菊池さん。
これも名字の影響か


・『丸に北条鱗』

P1140218

北条氏の家紋として有名。ここの使用家も北條さんであった。
「北条」って名字かっこいいよなあ…。 「後北条と申します」とか自己紹介されたらそれだけで惚れてしまいそうです。


お寺の正面に出て、草取りの(30年くらい前なら)お姉さんたちと談笑しながら調査を続ける。

・『熨斗の丸に桜』

P1140220

使用家は出町さん。

熨斗家紋も初めてですね。
熨斗ってもとはアワビを薄く切ったもののことらしい。



今回は昔内地で見かけた家紋の再発見と、未発見紋種の記録が進む場所でした。
それにしてもあの月のような家紋が気になる。 器物だとして一体何に使う道具なんだろうか。

今回調査した墓地の位置情報はこちら。



より大きな地図で 墓地 を表示


より大きな地図で 墓地 を表示


より大きな地図で 墓地 を表示