私は戦前のレトロ調個人病院の廃墟は好んで足を運んだが、一方で近代的な総合病院の廃墟というものに行ったことがなかった。
 普通の廃墟に比べて、病院の廃墟というと若干毛色が違う…だとかそんな精神的な問題もあると言えばある。 しかし本筋はもっと単純だ。 2012年現在において、街中の総合病院廃墟なんてものはそう存在しないのだ。

 病院はその性格上危険物が大量にあり、ほったらかしにするにも景観やら治安やらの問題でいろいろと支障をきたす。一昔前ならいざ知らず、2000年代に入ってどうどうと放置される廃総合病院なんぞ殆んどないのだ。
 わずかに残るものも、遠方にまでわざわざ出掛けて探索しようと思うほど魅力もない。私の中で病院廃墟はある種の伝説と化していたのだ。

 しかし伝説は現実となった。
 道南のとある町で数年前に建て替えられたある病院。そこにはまだ旧病院が残っており、そろそろ取り壊しすると聞いたのだ。
 それまで完全封鎖状態だったのでノータッチを決め込んでいたのだが、このチャンスを逃す手はない。
 土壇場で工事関係者とコンタクトを取り、30分間の約束で取材を了承してもらったのであった…

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 隣の老人介護施設から連絡橋が延びているのでそこから潜入。最初が三階というのが少々違和感はあるが。

 連絡橋の向こうは異世界が広がっていた。
 風の乾いた音がする
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 三階ナースステーション
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 当たり前かもしれないが、閑散としている。備え付けの品以外はすべて撤去されている。
 行政主導の病院だし、まあこんなものか。
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 三階 エレベーターホールから
 向こう側から何かざわつく気配を感じた。行くのはやめておこう。
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 左は病院内併設の床屋。新しい方の病院ではなくなってしまった。
 こういうものがあったから食えた人もいるってのに…
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 早々に二階へ降りる。
 右側は同じくナースステーションと入院病棟、左側が眼科や耳鼻科そしてシリツ、じゃなくて手術室
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 鈍いニノリウムの質感が病院の醍醐味だと思う。

 ナースステーション隣に新生児室が。
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 道内では緊急の分娩が困難な地域が増加していることだし貴重な場所だったのかもしれない。

 蛇口はそのまま。捻ってみたが当然出ない。
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 ナースコールの受話器も残っていたが、もしもしをする勇気はなかった。
 鳴ったらどうしようと思ってたくらいだ。

 二階入院病棟。
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 厳しいなあ。
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 この記事を編集している今頃はもう瓦礫の下になっている光景。
 手術室は後回しにして先に一階へ

 薬品くささから打って変わり、カビの匂いが漂う
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 階段下。
 数年間締め切っただけでここまで崩壊が進むものなのか…?
 左は小児科
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 反対側から。(余談だが撮影中、肩越しに猛烈な人の気配を感じた。気にしない気にしない)
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 玄関側で業者さんが舗装をはがす作業をしていたお陰で大分気が紛れたと思う。

 正面方向に進む。
 背後に歯科と婦人科、横に内科、正面奥にICU
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 歯科へ入る。
 椅子が残って居た。
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 普通古くても使えそうな物品はそのまま移すものなんだが…
 一時の泡銭に身を任せるのは人も自治体も一緒なのかねえ。

 これだけ荒れていてはもう使い物にならないだろう。
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 なんの機械なんでしょう
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 時間もないので手早くいく。

 メインホール兼会計待合場所
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 横に受附と、薬局
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 薬局に潜入。
 薬剤はもちろんすべて撤去済み。
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 そして、謎の階段。
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 何故薬剤室の中にこんなものがあるのか。
 おそらく薬の保管場所だとは思うのだが、恐ろし過ぎて先へは進めなかった。懐中電燈持ってきてなかったんですもの…。

11月6日追記)
 以前この病院で勤めていた看護師さんに伺ってみたところ、薬品の搬入路兼倉庫らしい。
 ただし随分前から使用されることはなくなっていたそうだ。彼女の話に依れば、勤務し始めたころにはもう使われていなかったという。 ということは少なくとも30年近く使っていないことになるが…

 さらに通りの奥は殆んど職員用の施設となっている。
 入院でもしていない限り、なかなか行く機会のない場所だ。
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 傾いてますね 一眼レフは難しい…。

 レントゲンの操作室にこんなものが
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 勿論レントゲンの機械は綺麗に撤去されていた。


 時間が迫っている 二階へ戻る。ついに手術室へ
 さすが廃墟になっても、現役時代と変わらぬ清潔さである。
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 棚に貼ってあったラベルの『布鉗子』ってなんぞ?
 布用ってことか?

追記)記事を見かけた方の情報によると、布鉗子は手術中など手袋をしていても直接ガーゼを触ってはいけない状況で操作をするための道具らしい。
「医学的清潔操作」によるとかなんとか。


 謎の機械
 その形状と場所から若干嫌なものを想像させるが…
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 実際中に奥行きは無く、何かを載せる網ラックのようなものが収まっていた。 ガーゼなんかを燻蒸するのかね
追記) オートクレーブという装置で高圧蒸気で滅菌をする道具だとか。

 たまに換気口がカンカンとなるので心臓の止まるような思いがする。
 何とも言えない感覚に耐えながら全面青い通路を抜けるとそこには…

 出たな無影灯。
 近代的病院廃墟の象徴である。
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 まさに真打登場といった感じか。

 ここだけなら現役時代とさして変らないのではないのだろうか。
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 流し場。
 仕事とはいえ、他人のハラワタや血をかき回してよく精神が持つなあ…
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 更衣室
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 こういった場所が人知れず解体されていくというのも実に惜しい。


 さて…時間だな。
 いるべき所へ戻らねばならない。
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 若干見たりないけど約束は約束。