「廃工場」
この響きからあなたは何を想像するだろうか。
暴○団 暴○族 暴力事件 アジト
周りの人間に聞いてみたが、大方回答はこんな感じで正直ろくな印象がない。
何故かってそれは映画や漫画の中で彼らのような怖ーいお兄さんがたは廃工場でたむろしていると相場が決まっているからだろう。 初めにこの法則を使った作品は何なのかは知らないが、廃病院は心霊スポットで、樹海と言えば自殺の名所といった感じでそれくらい決まりきったものになっているようだ。
確かに工場は普段人が立ち入らない辺鄙な場所にあることも多く、鎖のような拘束具も転がっていれば、暴行に使えそうな工具も一式揃っている。
ただっぴろいので助けに来た正義の味方と怖いお兄さんが暴れても撮影しやすいし迫力ある画も撮れる。なるほどそういうことだったかと頷いたが、とにもかくにも廃工場と言えば恐ろしい場所らしいのだ。
行ったことないけれど。
しかし今回ついに、そんな伏魔殿を取材できる機会が訪れたのである。
初めての工場廃墟、T製材所。ではどうぞ。
正直に言うと、この物件を尋ねたのは昨年平成24年の夏であることは内緒だ。
操業中は時報のサイレンや加工機材がけたたましい音が響いていた記憶がある。
現実の工場は今、まるでそれが嘘であったかのように静まり返っている。
いつものごとく一人なので、怖いお兄さんに出逢ったらただでは済まないが、中に誰かがいる雰囲気はない。
(そりゃ一応、管理人に話しつけてるんだから)
反対側に廻る。
幹線道路沿いのはずだが、本当に人気がない。 …一応ヒグマ出没地帯だ。
ここはなんの部門なのだろうか。
中に入っても人の気配は一切ない。
とりあえず安心。
埃が垂れ下がっている。
これだけ粉塵が舞うということはおそらく、樹皮を剥いだり材に裁断する部署だったのではないだろうか。
昔「弁護士のクズ」というドラマがあったな。
たまに車の走行音が過ぎ去っていく。
この柱も自社製なのだろうか。
ああいった標識を見るとSFCのドンキーコングを思い出す。
うえ 屋根が…
こちらからまた別の工程部署へ進んでいたようだが、見事に雪の重みでつぶれてしまっている。
管理人の話によれば、もともと経営状態がよろしくなかったところに雪で屋根が倒壊したことがトドメになって、事業を畳まざるを得なくなったのだという。
こちらは道路側からみた状態。
ものの見事につぶれてしまっている。
ちょうどいいので、ここで少し道南の林業についての話をしたいと思う。
もともと道南では古くから林業が盛んであった。 その始まりは現在のここ上ノ国や江差、厚沢部の山々であって、豊富な檜、翌檜は松前藩と請負商人たちに莫大な富をもたらした。 今でもこの地域に「檜山支庁」といった地名が残るのはこの名残である。
たびたび森林火災や過度の伐採等による打撃はあったもののこれは一時的であり、飛騨屋を代表とする商人や百姓らの努力により回復、明治を過ぎてもなお林業は道南各地で盛んで、大正以降鰊が取れなくなるとますますその勢いを増した。 林業は漁業と共に、米の育たない蝦夷地の主要産業であった。
戦後になると復興と開発による需要が伸び、林業業界は伐って売れば儲かるまさに空前のバブルにわいた。
しかしこれが林業を全国規模で衰退させる原因となる。
木材の需要は昭和30年代になっても止まることなく、いつのまにか供給が追い付かない状況に陥っていた。
新たな木材を伐り出そうにも、もう伐れるような木自体がなかったのだ。 国は杉の植林を奨励するとともに、苦肉の策で外材の輸入を自由化することで木材不足の解決を図った。 当然、もともと数が少なく高騰していた国産材が、安くて大量に用意できる外材に立ち向かえるはずがなくたちまちシェアを奪われていった。 国産材が売れなければ採算も取れず、林業は瞬く間に斜陽化し山は管理の手を離されてさらに荒廃が進んだ。 そして今、やっと伐り出せる状態になった杉林は売っても二束三文にしかならない花粉症を引き起こすお荷物に成り下がってしまった。
伐る事ばかりに躍起になって、後を育てることを忘れたためにおこった悲惨な現状である。
このような経緯で道南の林業も一気に衰退した。 林業を基幹産業としていた自治体も多い中、これは道南全体の景気、活力等に閉塞感をもたらすこととなり今もなお抜け出せていない。
この製材所の骸は、現在の道南の姿そのものなのだ。
少々長くなったが、物件探索に戻ろう。
さきほどと反対側の場所から。
…水平器?
工場だけあって、標語多数。
なんでこういう標語って古風な言い回しなんでしょう。
無駄無駄ァ!
労災案件起こしたら終わりですよ…色々
予想は外れて、どうやらここは「大板テーピング部門」なる場所らしい。
…とはいってもなんじゃそらって感じだが。
廃墟名物最後のカレンダー。
どうやら屋根がつぶれてすぐにやめてしまったようである。
※他の企業名が入っていたので修正しています。
夏だというのに枯れた季節。
最初の屋内写真の左手からメイン部門棟に繋がっている。
うへー広い。
いや本当広い。 この広さが表現できるほどのカメラの腕が欲しいッ!
よくこういう背景に、主人公が天井からつるされてボコボコにされているイメージ。
印象操作って怖いよね。
黒いスーツの人たちがいなくて本当によかった…
こっちの天井も相当汚れている。
これからはフィルター付きマスクを常備しておいた方がいいかもしれない。
屋内事務所か?
神棚がほとんどそのまま状態。
※例によって修正済み。
そのまま事務所に潜入。 ガラッとな。
って、なにここ…
現役当時そのままじゃないかよ…
廃墟で「まるでさっきまで人がいたような場所」というのは意外とよく目にする。
だがここはまるで程度が違う。そこらへんの廃校がかすむほどの、本当に場所から人だけ消えたような…
薄気味悪い。
脱ぎ捨てられた軍手と、テーブルに上がったままのお茶。 休憩時間の光景そのものすぎるのに…。
人間がいないことがここまで違和感を伴うとは。
放置されて約半年とはいえあまりにも生活感が残りすぎている。
事務所正面から。
瓦礫でふさがれている。 道路側からの侵入は不可能であろう。
まだ使いものになりそうな物品や材もそのまま残されているが…。
まあ大型機械類が全く残されていないので、アレではないと思う。(検閲事項)
と思ったけど…うーん。
とその時
「ポチャン…」という水の撥ねるような音が。緊張が走る。
暗くて見にくかったが、奥の方に貯水槽のようなものがありカエルか何かが住み着いているようだった。
音の正体はそれらしい。驚かせやがって…。
カメラの電池が切れそうだったのでストロボ撮影は避けた。申し訳ない。
木くずを投げ込んでみると水面までけっこう距離があるようだった。
注意力に欠ける私のことだ。 よそ見をしたままここに踏み込んでいたとしたら…。
これ、なんの機械なんだ…?
あんなのに足を巻き込まれる。 なんていう、しなくてもいい想像だけはよくする。
工場正面に見えていた場所。
足場の関係で入ることは避けた。
七尺玉掛…?
新手の格闘技か何かか?
クレーンで物を吊る規格のことです。
反対側に配電室兼裏口?
体育館の舞台袖のような印象。
この長靴の持ち主は今頃どこで何をしているのだろうか。
ここはこの巨大空間のほぼ中央部であり床もコンクリートでしっかりとしていたが、貯水槽や歯車があった附近は木くずが散らばり、しかもなぜか沈み込む。
板床なのだろうか。そうだとすると…?
やはり、廃工場は危ない場所なのかもしれない。
「というより廃墟が危険なんじゃね?」というツッコミはなしで。
内部の見どころはこんなところである。 雪で潰れた道路側はほぼ探索不能。
外へ戻る。
変圧器も手を持て余している。
工場正面向かいに小屋(といってもかなり奥行があるけど)のようなものも。
木材を保管しておく場所であった。
中はこんな感じ。木材が残っていた。
どこにも納入されることなく、朽ちていくのみ。
道路の向かい側にも社長宅や社宅等が残っていたがあまり気が進まず、また準備不足もあって工場のみの探索に留めておいた。
現在この物件は崩壊箇所が増え続けており、今年の雪であの木材保管小屋も倒壊してしまった。 工場中心部の広い空間もあと何年持つのかわからない状態である。
これからもこの廃工場には怖いお兄さんたちは出没しないであろう。
そりゃそうなのだ。
そもそもそんな怖いお兄さんたち…ある意味元気な若者たちが、地方の中核都市から何十キロも離れた辺鄙な山奥の、経済的に死にかけたこんな地域に大量にいるはずも来るはずもないのだから…。
林業が死に、経済が死に、地域が死に…
廃墟というものは実を言えばみんなつながっているのかもしれない。
この響きからあなたは何を想像するだろうか。
暴○団 暴○族 暴力事件 アジト
周りの人間に聞いてみたが、大方回答はこんな感じで正直ろくな印象がない。
何故かってそれは映画や漫画の中で彼らのような怖ーいお兄さんがたは廃工場でたむろしていると相場が決まっているからだろう。 初めにこの法則を使った作品は何なのかは知らないが、廃病院は心霊スポットで、樹海と言えば自殺の名所といった感じでそれくらい決まりきったものになっているようだ。
確かに工場は普段人が立ち入らない辺鄙な場所にあることも多く、鎖のような拘束具も転がっていれば、暴行に使えそうな工具も一式揃っている。
ただっぴろいので助けに来た正義の味方と怖いお兄さんが暴れても撮影しやすいし迫力ある画も撮れる。なるほどそういうことだったかと頷いたが、とにもかくにも廃工場と言えば恐ろしい場所らしいのだ。
行ったことないけれど。
しかし今回ついに、そんな伏魔殿を取材できる機会が訪れたのである。
初めての工場廃墟、T製材所。ではどうぞ。
正直に言うと、この物件を尋ねたのは昨年平成24年の夏であることは内緒だ。
操業中は時報のサイレンや加工機材がけたたましい音が響いていた記憶がある。
現実の工場は今、まるでそれが嘘であったかのように静まり返っている。
いつものごとく一人なので、怖いお兄さんに出逢ったらただでは済まないが、中に誰かがいる雰囲気はない。
(そりゃ一応、管理人に話しつけてるんだから)
反対側に廻る。
幹線道路沿いのはずだが、本当に人気がない。 …一応ヒグマ出没地帯だ。
ここはなんの部門なのだろうか。
中に入っても人の気配は一切ない。
とりあえず安心。
埃が垂れ下がっている。
これだけ粉塵が舞うということはおそらく、樹皮を剥いだり材に裁断する部署だったのではないだろうか。
昔「弁護士のクズ」というドラマがあったな。
たまに車の走行音が過ぎ去っていく。
この柱も自社製なのだろうか。
ああいった標識を見るとSFCのドンキーコングを思い出す。
うえ 屋根が…
こちらからまた別の工程部署へ進んでいたようだが、見事に雪の重みでつぶれてしまっている。
管理人の話によれば、もともと経営状態がよろしくなかったところに雪で屋根が倒壊したことがトドメになって、事業を畳まざるを得なくなったのだという。
こちらは道路側からみた状態。
ものの見事につぶれてしまっている。
ちょうどいいので、ここで少し道南の林業についての話をしたいと思う。
もともと道南では古くから林業が盛んであった。 その始まりは現在のここ上ノ国や江差、厚沢部の山々であって、豊富な檜、翌檜は松前藩と請負商人たちに莫大な富をもたらした。 今でもこの地域に「檜山支庁」といった地名が残るのはこの名残である。
たびたび森林火災や過度の伐採等による打撃はあったもののこれは一時的であり、飛騨屋を代表とする商人や百姓らの努力により回復、明治を過ぎてもなお林業は道南各地で盛んで、大正以降鰊が取れなくなるとますますその勢いを増した。 林業は漁業と共に、米の育たない蝦夷地の主要産業であった。
戦後になると復興と開発による需要が伸び、林業業界は伐って売れば儲かるまさに空前のバブルにわいた。
しかしこれが林業を全国規模で衰退させる原因となる。
木材の需要は昭和30年代になっても止まることなく、いつのまにか供給が追い付かない状況に陥っていた。
新たな木材を伐り出そうにも、もう伐れるような木自体がなかったのだ。 国は杉の植林を奨励するとともに、苦肉の策で外材の輸入を自由化することで木材不足の解決を図った。 当然、もともと数が少なく高騰していた国産材が、安くて大量に用意できる外材に立ち向かえるはずがなくたちまちシェアを奪われていった。 国産材が売れなければ採算も取れず、林業は瞬く間に斜陽化し山は管理の手を離されてさらに荒廃が進んだ。 そして今、やっと伐り出せる状態になった杉林は売っても二束三文にしかならない花粉症を引き起こすお荷物に成り下がってしまった。
伐る事ばかりに躍起になって、後を育てることを忘れたためにおこった悲惨な現状である。
このような経緯で道南の林業も一気に衰退した。 林業を基幹産業としていた自治体も多い中、これは道南全体の景気、活力等に閉塞感をもたらすこととなり今もなお抜け出せていない。
この製材所の骸は、現在の道南の姿そのものなのだ。
少々長くなったが、物件探索に戻ろう。
さきほどと反対側の場所から。
…水平器?
工場だけあって、標語多数。
なんでこういう標語って古風な言い回しなんでしょう。
無駄無駄ァ!
労災案件起こしたら終わりですよ…色々
予想は外れて、どうやらここは「大板テーピング部門」なる場所らしい。
…とはいってもなんじゃそらって感じだが。
廃墟名物最後のカレンダー。
どうやら屋根がつぶれてすぐにやめてしまったようである。
※他の企業名が入っていたので修正しています。
夏だというのに枯れた季節。
最初の屋内写真の左手からメイン部門棟に繋がっている。
うへー広い。
いや本当広い。 この広さが表現できるほどのカメラの腕が欲しいッ!
よくこういう背景に、主人公が天井からつるされてボコボコにされているイメージ。
印象操作って怖いよね。
黒いスーツの人たちがいなくて本当によかった…
こっちの天井も相当汚れている。
これからはフィルター付きマスクを常備しておいた方がいいかもしれない。
屋内事務所か?
神棚がほとんどそのまま状態。
※例によって修正済み。
そのまま事務所に潜入。 ガラッとな。
って、なにここ…
現役当時そのままじゃないかよ…
廃墟で「まるでさっきまで人がいたような場所」というのは意外とよく目にする。
だがここはまるで程度が違う。そこらへんの廃校がかすむほどの、本当に場所から人だけ消えたような…
薄気味悪い。
脱ぎ捨てられた軍手と、テーブルに上がったままのお茶。 休憩時間の光景そのものすぎるのに…。
人間がいないことがここまで違和感を伴うとは。
放置されて約半年とはいえあまりにも生活感が残りすぎている。
事務所正面から。
瓦礫でふさがれている。 道路側からの侵入は不可能であろう。
まだ使いものになりそうな物品や材もそのまま残されているが…。
まあ大型機械類が全く残されていないので、アレではないと思う。(検閲事項)
と思ったけど…うーん。
とその時
「ポチャン…」という水の撥ねるような音が。緊張が走る。
暗くて見にくかったが、奥の方に貯水槽のようなものがありカエルか何かが住み着いているようだった。
音の正体はそれらしい。驚かせやがって…。
カメラの電池が切れそうだったのでストロボ撮影は避けた。申し訳ない。
木くずを投げ込んでみると水面までけっこう距離があるようだった。
注意力に欠ける私のことだ。 よそ見をしたままここに踏み込んでいたとしたら…。
これ、なんの機械なんだ…?
あんなのに足を巻き込まれる。 なんていう、しなくてもいい想像だけはよくする。
工場正面に見えていた場所。
足場の関係で入ることは避けた。
七尺玉掛…?
新手の格闘技か何かか?
クレーンで物を吊る規格のことです。
反対側に配電室兼裏口?
体育館の舞台袖のような印象。
この長靴の持ち主は今頃どこで何をしているのだろうか。
ここはこの巨大空間のほぼ中央部であり床もコンクリートでしっかりとしていたが、貯水槽や歯車があった附近は木くずが散らばり、しかもなぜか沈み込む。
板床なのだろうか。そうだとすると…?
やはり、廃工場は危ない場所なのかもしれない。
「というより廃墟が危険なんじゃね?」というツッコミはなしで。
内部の見どころはこんなところである。 雪で潰れた道路側はほぼ探索不能。
外へ戻る。
変圧器も手を持て余している。
工場正面向かいに小屋(といってもかなり奥行があるけど)のようなものも。
木材を保管しておく場所であった。
中はこんな感じ。木材が残っていた。
どこにも納入されることなく、朽ちていくのみ。
道路の向かい側にも社長宅や社宅等が残っていたがあまり気が進まず、また準備不足もあって工場のみの探索に留めておいた。
現在この物件は崩壊箇所が増え続けており、今年の雪であの木材保管小屋も倒壊してしまった。 工場中心部の広い空間もあと何年持つのかわからない状態である。
これからもこの廃工場には怖いお兄さんたちは出没しないであろう。
そりゃそうなのだ。
そもそもそんな怖いお兄さんたち…ある意味元気な若者たちが、地方の中核都市から何十キロも離れた辺鄙な山奥の、経済的に死にかけたこんな地域に大量にいるはずも来るはずもないのだから…。
林業が死に、経済が死に、地域が死に…
廃墟というものは実を言えばみんなつながっているのかもしれない。